5756m Stella Point 6:15
5895m Uhuru Peak 6:45
4600m Barafu Hut 9:45
Rest
4600m Barafu Hut 14:00~
3137m Mweka Camp ~16:30
歩行距離:ピークまで4.5km
Barafu Hut~Mweka Camp 10.5km
一つの挑戦権を手に入れた。等しく受け入れそして拒む神の愛をボクがアタックの結果いかんに問わずその結果を受け入れることができるのかどうか、自分自身への挑戦権を。
17時に炭水化物たっぷりの早めの夕食をとった。早く寝ようとするのだが、みんな興奮しているのか、床につこうとしない。というか、本を読んだいた。ヘミングウェイの短編「キリマンジャロの雪」。それまで4日もあったのに読み終えていなかったのだ。山でする遊びといえば読書→キリで読む本→「キリマンジャロの雪」という安易かつミーハーなことを考えていたのはボク、光成氏、コナンの三人。別に示し合わせたわけでもなかった。「読み終えていないのに頂上には立てない」まるで宿題を授業が始まる直前に必死にやっている、中高生のよだった。
2時間ほど寝袋に入った。が、寒さと風で一睡もできなかった。寝袋からはい出し、身につけられる限りの装備を身に付け、ブーツをはき、ゲイターをつける。それだけでも、息苦しい。長くも貴重な一日がスタートした。
あたりは闇が包んでいた。それでも星たちが所狭しと夜空を占めていた。1等星も4等星も地上で見るよりも見分けがつかなかった。1等星が4等星に優しくよりそっているのか、それも4等星が1等星に近づこうとしているのか。そして、ルートの先を見上げると、先行するパーティのヘッドライトの明かりがジグザグの道を作りながら、星空へと溶け込んでいっていた。星が人によりそおうとしているのか、人が星に近づきたくて上を目指しているのか。4日目にアウグストが言っていた "Middle of nowhere"や"Another Earth" というよくわからなそうで伝わってくる頂上の景色を渇望した。
5000mを超えても、心身ともに余裕があり、ジョーダンや古今東西何かをしながら登る。三成氏は相変わらずピンピン。コナンとユリちゃんは黙々と歩を進める。5300mを超えたあたりから数歩進んで深呼吸に立ち止まる。数歩進んで深呼吸に立ち止まる。それを繰り返した。そでもフラフラする。眠い。そして急げなくなった。急ぐと、高山病の症状の吐き気や頭痛が襲ってきた。そして、寒かった。とにかく寒かった。鼻水は凍り、上唇に張り付いた。そんな時、一番心配されたコナンが遅れだした。「ごめん、先に言ってて」3人は「わかった。ゆっくりね」とは言えても「追いついてこい」とは言えない。コナンにアウグストがついて、ボクら3人とサブガイドのムリとマイクが先へ進んだ。
ギリギリのところで息をはき出しながら保つ。吐き気も頭痛もそんなにひどいものではなかったし、頭痛はほとんどなかった。
が、ボクの番が回ってきた。
突然の吐き気に嗚咽を漏らす。サブガイドのムリがボクの肩を支えてくれる。明るくなってわかったことだが、このあたりは一回転げ出すと、どこまでも転げていきそうな場所。吐いてみたものの、何も出なかった。あたりまえだ。アタックをかけて6時間弱、何も食べていないのだから。光成さんは休憩時スニッカーズにうまそうにかぶりついていたが・・・
ボク「ごめん、先に行ってて」
光成・ゆりちゃん「わかった」
2人はゆっくりではあっても、確実にボクより速い歩でサブガイドのマイクとともに登っていった。
ムリと2人で小休止。いつの間にか、空はしらみだしていた。進む先には短くなったヘットライトの道が星たちと交わり境界をなくしていた。しかし、さっきよりも星々との距離は近く、ライトの道は短かった。進んできた道には、バターをぬったようなのっぺりとした雲が大雲海をつくり、氷河がいつの間にか真横にあった。しらみだしていたのは空ではなく、大雲海であり、山を覆う氷河だった。星と山と雪と雲が創り出す世界に涙した。言葉にできない美しさへの感動と一人では登頂できなかっただろうという感謝。不思議とその涙のつぶは凍らずに流れた。こらえようとすると呼吸が大きくなり、体が楽になる。ゾーンへと足をふみ入れた。
火口外縁へ到着。そこがStella Pointだ。ここからUhuru Peakまでは緩やかな登り。難所は超えた。先に到着していた光成さんとユリちゃんと合流。が、Stella Pointについたとたん風の強さが数倍に。岩かげにはいっても5分もいられなかった。「ここで、コナンをまつのか」と不安になりかけたときコナン到着。この時点は6時30分。この日の日の出は6時45分で、このStella Pointで日の出を待つ予定だったが、アウグストの指示でUhuru Peakを目指すことになった。
このころまでには、あたりはオレンジが主張をしはじめ、岩を朱色に、氷河を赤く染め上げていた。そして、太陽光に照らされた、大雲海は急に温度を上げ、信じられないくらいの速さで立体感とコントラストを作り出した。アウグストが形容した"Middle of nowhere"や"Another Earh"がよくわかる。今でもあの世界を形容する言葉をボクは持たない。頂上Uhuru Peakの記憶はあまりない。ガイドたちに「おめでとう」と祝福され、「ありがとう」と返して写真を撮ったぐらいだ。
ただただ、大きな世界に圧倒されただけだった。それは「自分が小さい」と思わせる類のものではなく、「ただ世界がある」それだけだったのだと今では思う。
分かり合えない人は必ずいるとキリマンジャロで感じた。誰かがそうだった、というわけでなく。ボクら4人のパーティも同じ時に同じ行程で、同じように体力を消耗して頂上へ立った。同じ経験をしても感じることは全く違うのだ。ただ大雲海を見ながらそう思った。
たからこそ、ボクらは人に対して優しさをもって接していかなければと思う。それは「なれあい」や「傷つけない」というある種の惰性のような態度ではなくやさしさをもって。